ドラマ「俺の家の話」の解説感想

俺の家の話 のおかげでTwitterのフォロワーが増えました。せっかくだから能楽師から見た1話の解説・感想でも書きましょう。


よく聞かれる事は能のシーンで演者が倒れるシーンについて。
実際にああいう事が起こったら舞台上で何が行われるか。
これはロケハンの時にも監督さんに聞かれました。
舞台の後方には「後見(こうけん)」という役の人が通常2人座っています。
後見は舞台上での物の受け渡し・装束替えなどを行ういわゆる黒子(くろこ)のような役ですが、演者に支障が出た場合代わって舞台を勤めるとても重要な役です。

さて、シテが倒れた!
まず地謡・囃子はそのまま進行します。そして後見の一人がシテを引きずって舞台奥右手の切戸口という小さな引き戸から楽屋へ入れます。同時にもう一人の後見が紋付袴姿そのままで舞い始めます。以上
多分30秒かからないかな
ただ、面が落下するシーンがありました
実際はああして落ちることなんて無いので、人が倒れたイメージ映像って事だと思います


でももし落ちたら?
これは能楽師は反射的に人よりも面を先に保護するような気がします。冷静に考えればまず人命ですが咄嗟の時には能面優先になるような気がします


こんな事がありました。曲の途中で明らかにシテが不調となり面の横から見える顔色も真っ青になって、汚い話ですがよだれもダラダラ垂れてきて面の顎から滴るほど。
それを楽屋で見ていたシテの父親「大丈夫か?大丈夫か?面は大丈夫か!?」
かように能楽師は面を神聖化しています。


という事はドラマの冒頭で出た面を飛び越えるシーン。
あれは能楽師にとっては最大の禁忌行為です。


あのシーンに眉を潜める能楽師は多かったようですが、ドラマの流れから見ると、最大級の親への反抗と能楽と決別する決心をするための禁忌を犯した、とても重いシーンに私には思えてしまうのです。

能とプロレス

Twitterに書いた文章をまとめてるものです。

能とプロレス。ずいぶん畑違いに見えるかもしれませんが、舞台上・リング上での演者同士・選手同士の駆け引きは似ているものがあると思っています。

能楽は演劇ですからもちろんシナリオ(セリフ)があります。
しかしシテ(主役)ワキ(脇役)は違う流儀なのです。つまり全く同じテキストではありません。


そして囃子方。例えば笛・小鼓・大鼓・太鼓も皆違う流儀です。
ではどうやって擦り合わせるのかと言いますと、擦り合わせません!どうしても話が噛み合わない時だけ融通します。


しかも、稽古(練習)はそれぞれが自分だけで稽古をします。
全員で合わせるのは基本的に前日か前々日に「申合(もうしあわせ)」を1回だけやります。時にはそれも行いません。
ではなぜ合うのか?
今回のドラマで「羽衣」という曲がありましたが、それぞれが自分の信じる「羽衣」という曲を表現します。いわばプロレスで言えば技を繰り出すわけです。


そしてそれは、よけてはいけません。正面から受けるのです。そしてこちらも自分の主張を繰り出し相手もそれを受け止め…というふうにして、時には協調し時には押し合いとなって自然「羽衣」という曲の最大公約数が舞台上に現れる、というのが能の表現となります。
ですからこの緊張感を作るために、みんなで集まって稽古したりせず、公演も1日限りになっているところが特徴的です。
舞台はその場一度限りです。

てなことで、能=プロレス論でした。